他方で、何年にもわたって毎年一から数回も頻回にうつ病を起こす患者さんがあることも確かです。
再発を起こしやすい因子としては、表賜‐1のような研究結果が報告されております。
また、うつ病がくり返し起こる場合に、年を経ることにうつ病の病相が頻発してくるというレビスやスレーターらの研究があります。
さらにルンドクイストという学者の報告では、その間隔はいつまでも同じ長さの間隔が続くという結果が得られておりますように、うつ病がどのように経過するのか、一定の様式はないよう以上の結果から、うつ病がしばしば再燃することを印象づけられますが、問題はこれらの研究の対象になった患者さんが重症の操うつ病に偏っている結果、非常に悪い予後結果が得られたという指摘もあります。
私は、川崎医科大学附属病院心療科の外来で治療した操うつ病の患者さんで一○年間以上の経過を観察できた四九例について、予後の判定をしてみました。
一三名(二七%)の方は一○年間に一回の発病で、その後は全く発病しておりません。
また一○年間に二回は一二名(二四%)で、三回の発病があった患者さんが約半数でした。
以上の結果からは、操うつ病は前に述べた研究報告よりずっと予後がよいと思われる結果が得られたのです。
しかし、残念ながら、約半数の方はやはり三回以上の再燃をみております。
ことに双極型うつ病(操うつ病)では頻発する傾向がみられました。
プライエンという研究者の報告でも同様の結果を述べております。
幸いなことに、一○年後の患者さんの状態は、ほとんど全員、症状がほとんどなかったり、あっても軽度である患者さんでした。
そして、社会生活の適応もよい方々が約九○%を占めておりました。
このようなよい予後はいろいろな治療や予防治療を行った結果であって、病気を放置していた結果でないことを銘記しておく必要がありましょう。
うつ病は再発しないように種々の予防治療を行いながら、注意深く予後を見守っていかなければならないことがわかってきました。
まず、うつ病の治療に用いられてきた三環抗うつ薬を服用し続けると、うつ病は予防できるかという疑問が生じてきます。
最近の多数の研究からは、「イミプラミンを服用し続けるとうつ病が再発しないように予防できる」という見解には疑問が生じてきました。
三環抗うつ薬を長期間用いて治療を続けると、燥病相を誘発しやすくする危険性があると同時に、うつ病相を頻発すると考えられており、米国精神医学会のガイドラインは「予防的に三環抗うつ薬を用いないほうがよい」と指摘しております。
予防療法に適しているのは、抗うつ薬のなかではSSRIです。
SSRIを長期間服用すると、明らかにうつ病の再発・再燃を予防する作用があります。
そのうえ、操状態を誘発することがない、または誘発が少ないことが利点の一つなのです。
ただ、もっと長期間(一○年以上)の予防効果がみられるかどうかは、今後の研究を待たなければなりません。
フルボキサミンに関しては、欧州では一五年の経験があり、反復性うつ病での再発予防効果にすぐれ、安全性についても全く問題はないと報告されております。
また、最近の研究ではパロキセチン、セルトラリンなどすべてのSSRIに予防効果が認められております。
第二には、リチウムが操うつ病を予防することが近年明らかになってきたのです。
精神科薬物治療のうえでは、リチウムによる治療は精神薬理学での最大のトピックスとなり、毎年五、六百の論文が発表され、リチウム研究の総数は三万を超えるほどです。
リチウムは、スウェーデンの化学者アルフベードソンが一八一八年に発見した、最も軽い金属原子です。
彼はこれが鉱石からみつけられたので、ギリシャ語の石にあたる言葉ロgoのからとってリチウムと命名しました。
リチウムは自然界に広く存在しており、植物や動物の組織のなかにもごく微量含まれておりますが、どのような働きをしているのかは全くわかっていないのです。
薬品としてリチウムが使われるのは、リチウム塩のリチウムの部分、いわゆるリチウムイオンEです。
これは人間のからだのなかでは最も重要だと考えられているナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムとよく似た性質をもっております。
2リチウムが操うつ病の予防に用いられた最初の報告は、ほぼ一○○年前、英国のハーチガンによるものです。
しかし、リチウムが操うつ病の治療や予防に用いられて効果のあることが実証されたのは、一九六○年代のことです。
リチウムが生物の細胞のなかに入ってさまざまな酵素の働きに作用したり、細胞膜の機能に影響するなどの研究が進んでおりますが、生物にとってどのように作用しているのか、どの作用が治療上重要であるのかは、まだ解明されておりません。
リチウムの予防効果は七○%わが国では、昭和五十四年、第七十九回日本精神神経学会総会のシンポジウムで、江原がリチウムの操うつ病に対する予防効果について発表しました。
江原は、リチウム療法前二年間に二回以上の燥病相をくり返していた患者さんに、リチウムを二年間以上投与して、その間のうつ病相リチウムが医薬品として現れたのは一八五○年頃からで、当時はリウマチの治療に用いられたほか、精神安定剤、糖尿病治療、伝染病の予防にも用いられた歴史があります。
操うつ病の治療に用いられた歴史は、精神科薬物療法の歴史そのものでもあります。
今日では、リチウムが操うつ病の気分の変動を抑えて予防効果を発揮すること、またうつ病相のみをくり返す単極型うつ病の場合にも再発を予防することは、多数の研究が一致して証明しているところでリチウム療法の歴史の増加または減少を調べたのです。
‐3のように、リチウムを服用していても、以前と変わらず再発した方が三三%にみられました。
しかし、六七%すなわち三分の二の患者さんは、今まで毎年のように再発をくり返していたのに、リチウムを服用したその後の二年間では、再発が少なくなったり全く再発をしなかったのです。
しかし、このように画期的な予防薬リチウムによっても予防効果がみられない患者群が約三○%あることも忘れてはなりません。
リチウムの有効性予測病型によるリチウム予防療法の有効性予測では、双極性障害I型、双極性障害U型、定型的繰病、定型的操うつ病の臨床像を示す感情障害には予防率が高いのですが、分裂感情障害、非定型操うつ病、大うつ病、頻発型感情障害に対する有効性はカルバマゼピン、バルプロ酸より劣るといわれています。
予防療法に必要な炭酸リチウム(リーマス。
しかし、血清リチウム濃度が高いほど腎機能障害などの副作用の発症頻度も高くなるため、可能な限り低い血清リチウム濃度での予防療法を心がけねばなりません。
すなわち、わが国では○・三から○・六日両昌一の血清リチウム濃度での予防療法が推奨されております。
なお、○・三日向昌一以下の血清リチウム濃度であっても予防効果が得られている症例では、炭酸リチウム投与量を増加し血清リチウム濃度を○・三から○・八日両昌一に上昇させる必要はありません。
また、○・六日向昌一以下あるいは○・八日両昌一以下で予防効果の得られない症例では、炭酸リチウム投与量を増加せずに、ほかの気分安定薬を併用するのが安全です。
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